14日に芥川賞に決まった石沢麻依さん、李琴峰さんの作品について、選考委員の松浦寿輝さんの講評は以下の通り。【屋代尚則/学芸部】
石沢さんの「貝に続く場所にて」と、李さんの「彼岸花が咲く島」の2作が、候補の中で際立って高い評価でした。
「貝に…」は、ドイツに留学する主人公の女性が昔の友人と偶然出会ったが、その相手は実は2011年の東日本大震災で亡くなった幽霊だと明示される。全体はファンタジーの色彩が強いが、大変リアルに人間模様を描いています。小説にしかできない、一つの世界を作り出すことに挑んだ作品です。
石沢作品は、震災から10年を経ないとこの物語に昇華できなかった、と感じさせる独創的なアプローチと感じました。歴史的に大きな傷痕を残す出来事は、時間がたってからその意味や本質が明らかになることもあります。
「彼岸花…」は、沖縄・与那国島がモデルと思われる<島>を舞台に<ニホン語><女語>など現代の日本語とは違う言葉を飛び交わせ、登場人物が衝突したり共鳴したり……という言語空間を構築しようとした冒険性が評価されました。
李さんは楊逸(ヤン・イー)さんに続き、日本語を母語としない作者で2人目の受賞です。日本語というものは固定された言語でなく、母語としない人も使うことで、これからもどんどん変わりうることを示している。日本語の概念そのものを問い直す作品で、李さんのような方が賞を受けるのは大きな意義があります。
個人的な意見も含みますが、石沢さんは完成度の非常に高い文学的な文章。一方で李さんに関しては、文章が粗っぽい、比喩が多すぎるなどの批判もありましたが「(李さんの)ポテンシャルを買いたい」という声も多かった。高等な文学空間を構築した前者と野心的な展開の後者、対照的な2作を共に評価したいという意見が委員の中で強かったです。
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2021-07-14 12:49:38Z
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