世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭授賞式が17日(日本時間18日)フランスで開かれ、濱口竜介監督(42)が映画「ドライブ・マイ・カー」(8月20日公開)で共同脚本の大江崇允氏とともに脚本賞を受賞した。日本映画の同賞受賞は、史上初の快挙となった。濱口監督は壇上で「ありがとうございます。脚本賞…この物語に対していただいた賞ですけれども、まず最初にお礼を申し上げなくてはいけないのは、この物語を我々の映画に与えてくれた、原作者の村上春樹さんです」と、作家の村上春樹氏(72)に感謝した。

「ドライブ・マイ・カー」は、村上氏が13年11月発売の「文芸春秋」12月号に発表した短編。同誌14年3月号まで連続で掲載した「女のいない男たち」と題した連作の第1弾で、14年の短編小説集「女のいない男たち」(文春文庫刊)に収められた短編小説の映画化作品。同名の短編に加え「女のいない男たち」に収録された6編の短編の中から「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影し、脚本を作り上げた。

濱口監督は、黒のタキシード姿で壇上に立ち、フランス語で、どうもありがとうを意味する「メルシーボークー」とあいさつした。その上で「大江崇允さんという共同脚本家の方がいらっしゃいます。大江さんと僕の関係は、すごく奇妙なもので、大江さんも脚本家なんですけど、僕にひたすら書かせるタイプの脚本家です」と大江氏を紹介。その上で「大江さんが、いつも言ってくれたのは、読みながら『本当に素晴らしい。このままやりなさい』と、そういうことを言ってくれました。この映画は3時間近くありますけれども、長大な物語で、単純に分かりやすさだけを考えたら、そうはできなかったかも知れない。でも、彼が励まし続けてくれたから、この物語を最後まで書き切れたと思っています。なので、メルシーボークー、大江さん」と大江氏に感謝した。

そして「脚本賞をいただきましたけれども、脚本は映画には映っていないわけなので、その脚本が素晴らしいと思っていただけたというのは、それを表現する役者たちが本当に素晴らしかったからだと思います。役者達が私たちの物語だと思っています」と口にして、カンヌに映画祭に参加できなかった主演の西島秀俊(50)、公式上映や会見に参加した三浦透子(24)と霧島れいか(48)ら俳優陣の名前を次々と挙げた。その上で「役者の皆さんが、この物語を自分の体で素晴らしく表現してくれた。もし、よろしければ、今、ここで海の向こうにいる役者、役者を支えてくれたスタッフの皆さんに、多くの拍手を送ってくれたら、ありがたいと思います」と言い、両手で拍手して場内に拍手を求め、受賞スピーチを終えた。

濱口監督にとって、商業映画デビュー作となった18年「寝ても覚めても」が初めてカンヌ映画祭コンペティション部門に出品されて以来、3年ぶり2度目の同部門への出品だった。20年にベネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢監督の「スパイの妻」では、大学院の後輩の野原位氏とともに企画と脚本を担当し、師匠である同監督に企画を持ち掛けた。今年2月のベルリン映画祭では、オムニバス映画「偶然と想像」で審査員大賞(銀熊賞)を受賞し、カンヌ、ベルリン、ベネチアの世界3大映画祭を席巻している。今回の脚本賞受賞で、世界に「ハマグチ」の名が、さらに印象づけられたことは間違いない。

◆「ドライブ・マイ・カー」舞台俳優で演出家の家福(かふく)悠介(西島)は満ち足りた日々を送る中、脚本家の妻音(霧島)が、ある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまう。2年後、喪失感を抱えたまま生きる家福は、広島の演劇祭で演出を任されることになり愛車で向かった広島で、寡黙な専属ドライバー渡利みさき(三浦)と出会う。最初は専属ドライバーは不要だと言った家福だが、みさきとともに過ごす中で、それまで目を背けていた、あることに気づかされていく。