天才にライバルはいるのか? 将棋の藤井聡太竜王(王位・叡王・棋聖=19)が渡辺明王将(名人・棋王=37)に挑戦する、第71期ALSOK杯王将戦7番勝負第4局(主催 毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社・日本将棋連盟)は11、12日、東京都立川市で行われ、後手の藤井が開幕4連勝で王将を初奪取し、史上最年少5冠になった。レジェンド・羽生善治九段(51)ら「羽生時代」とは環境が異なり、「藤井時代」は人工知能(AI)の将棋ソフトでの研究が全盛時代を迎えている。また、「ひふみん」こと加藤一二三・九段(82)が今局を解説した。

   ◇   ◇   ◇

藤井5冠が、渡辺さんよりも1手早く駒を活用する指し回しで完勝しました。王将奪取局で目立ったのは、駒組みのうまさです。50手目後手3四銀から先手3五歩に後手4三銀の組み替えは誰にもまねができません。非凡です。この銀、後で後手4四銀(76手目)と出て、次の後手4三金左と寄せ木細工のような組み手で、渡辺さんが先制攻撃とばかりに2筋に作った「と金」を空振りさせています。

さらに後手5一玉(88手目)は「玉の早逃げ八手の得」の格言通り。冷静に自陣を詰まないようにしてから、寄せ切りました。その後の後手8五金(100手目)で分かりやすくしました。これが「俗手の妙手」で、勝利と最年少5冠を確定させたと言えましょう。

日刊スポーツの記者は、1993年(平5)の羽生5冠誕生時、将棋の観戦記も書いていた脚本家の石堂淑朗さんを取材して、「タイトルをいくつ取っても、名人になれなければ意味がない」と言われたそうです。

そのとおりだと思います。確かに将棋界最高額の賞金4400万円を誇る竜王は、「実」の部分として大きいかもしれません。ただ、棋士たる者、誰しも伝統と格式のある名人を目指すためにこの道を選んだはずです。

藤井5冠は、順位戦で現在B級1組。名人戦挑戦権を争う1クラス上のA級昇級まであと1勝です。ぜひA級に上がって、名人を目指してほしい。もはや、名人獲得は視野に入ってきたと思います。