涙にじませた白石和彌監督、「瀧容疑者」とは呼ばず - BuzzFeed Japan

「映画はどの作品も紆余曲折あるんですけど、この作品は今朝まで難産続きでした」

映画『麻雀放浪記2020』に主演した斎藤工は3月20日、都内の劇場で開かれた完成披露イベントでこう話した。

映画に出演したピエール瀧容疑者が麻薬取締法違反（使用）容疑で12日に逮捕され、一時公開も危ぶまれた。

しかし、この日の早朝、東映の多田憲之社長、メガホンをとった白石和彌監督が出席した会見で、瀧容疑者の出演シーンをカットせずに当初の予定通り4月5日に公開することが発表された。

1984年の映画「麻雀放浪記」（和田誠監督）版のファンである斎藤にとって、今作は10年間熱望し、アプローチを続けてきた作品でもある。

「監督、スタッフさん、キャスト全てが映画を公開して人に届けるという一念で作ってきた。今朝の会見で東映さん、白石監督がひとまず公開という英断をしてくださってホッとしています。引き続き応援をよろしくお願いいたします」

斎藤の言葉が終わると、会場からは拍手が起こった。

白石監督にとって瀧容疑者は、2013年公開の映画「凶悪」以来5つの作品に出演する常連俳優だ。以前の取材では「お芝居などやることに信頼感も安心感もある」と語り、関係の深さをうかがわせていた。

「『凶悪』から瀧さんが本当に大好きで、こういうことを起こすとはゆめゆめ思ってなかったです。最近の報道では20代の頃から（薬物を）やっていたとのことだった。長い時間を共有した作品もある中で、そこに気づけなかったのは僕の不徳の致すところだと思う」

白石監督は涙を滲ませつつ、語った。

瀧容疑者が吹替え声優を務めたディズニー映画『アナと雪の女王』では逮捕後に声優交代が発表され、5月公開の映画『居眠り磐音』は、瀧容疑者の出演箇所を撮り直して公開される。

その中で、『麻雀放浪記2020』は配給する東映の「映画の上映は有料かつ鑑賞の意思を持ったお客様が来場し鑑賞するメディア」（作品ホームページから）との判断でノーカットのままで上映に踏み切る。

「瀧さんがしてしまったことを許すわけにはいかない」

そう前置きをして、白石監督は沈痛な面持ちで続ける。

「それでも作品に罪はないということを宣言しました。それはこの映画だけじゃなくて、日本のエンターテイメントのためにも過去の作品を何も考えずに封印するだとかは、やめた方がいいのではないかと思う。正しいかどうかはわからないんですけど、きっといつか間違っていたわけじゃないと言ってもらえるように、これからも作っていかないといけない」

白石監督はヤクザなどアウトローを作品で数多く描いてきた。その中で禁止薬物の描写も少なくない。

「本当に今まで僕は映画の中で禁止薬物を使用するシーンも描写してきたので、これからはそういうことはよくないという啓発運動だったり、作品とは別に個人的に取り組んでいきたいなと思っています」

話を終えると、口を真一文字に結び、空を見上げた。

この日「本当は瀧容疑者と呼べと言われているんですけど」と明かした白石監督は、最後まで瀧さんと呼び続けていた。

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