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「呪術廻戦」伏黒甚爾役・子安武人が語る悪役の哲学「枠の中に当てはめて演じていくことはない」 - アニメ!アニメ!

TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」が、7月6日からいよいよ放送開始。興行収入138億円の大ヒットを記録した映画『劇場版 呪術廻戦 0』につながる過去の話が展開し、五条 悟・夏油 傑・家入硝子の学生時代に起きた事件が描かれる。

今回のエピソードで本格的に登場するのが、伏黒甚爾。伏黒 恵の父親であり、高専時代の五条たちを苦しめる最強の「術師殺し」だ。作中屈指の人気キャラクターを演じるのは、オーディションにとって役を勝ち取った子安武人。『呪術廻戦』への並々ならぬ愛情からキャラクターの内面の掘り下げに至るまで、ディープに語っていただいた。

[取材・文:SYO]

一目ぼれに近いような感覚


――まずは、子安さんと『呪術廻戦』の出会いを教えて下さい。

子安:元々原作を読んでいて、すごく面白いと感じていました。「呪術」という負の感情から生まれるエネルギーをバトル漫画の筋肉として使っている部分も新鮮ですし、何よりも僕はキャラクターに惹かれました。

どうしても役者の仕事をしていると、完全な読者としては漫画を読めないんです。魅力的なキャラクターが登場したら「やってみたいな」と思うし、「自分がやるならこのキャラクターかな」というエゴに満ちた目線が入ってきてしまう。内容の面白さに惹かれてはいるんだけど、どこかで「自分が役者として惹かれるキャラクターがいないか」と探しているんですよね。そういう意味では、そもそもアニメ化した際に自分が関われる可能性のある作品を選ぶ癖はあるなと思います。小学生しか出てこない作品だったら、「自分にはできないよな」と思ってしまいますし。

そのうえで、『呪術廻戦』はまず自分が参加したくなるようなタッチや雰囲気、匂いがありました。キャラクターについても「五条いいなぁ、俺がもう少し若かったらな」なんて思いつつ「自分がやれる/やりたくなるようなキャラクターが出てこないかな」と思っていたら――出会ってしまったんです、伏黒甚爾に。

アニメ化も決まっていない状況でしたが、声優として演じたい!と感じました。一目ぼれに近いような感覚かもしれません。屈折した心を持っていて、単純に強そうで、敵役として輝いていて――。僕自身、キャリアの中で悪役を演じる機会が多かったので、負の感情を持った人物の方が理解しやすいし、惹かれているところはあるかもしれません。だからこそ演じることができて、こんなに嬉しいことはありません。もし他の人が甚爾を演じることになったら、悔しくて『呪術廻戦』を読めなくなっていたかもしれない(笑)。

――それほどの思い入れが……!

子安:特に今回はオーディションで選んでいただきましたから。オファーではない、ということは落ちる可能性もあったわけです(笑)。これは声優あるあるですが、ある役のオーディションでは落ちたけど別の役で起用いただくことは結構よくあるもの。つまり、好きな作品で一番やりたいキャラクターを演じられる機会って、なかなかないんです。今回はその両方が上手くいったから、本当にホッとしました。

――となると、オーディション時は緊張されたのでしょうか。

子安:いやぁ、恐ろしかったですね。今回はテープオーディションにて自宅で収録したものを送る形でしたが、音環境がそんなにいいわけじゃないから「お金を出してスタジオで録ろうかな。音響が悪いから落とされたらいやだな」なんて考えてしまったり、情緒が大変でした(笑)。

アフレコの前の日も、普段ここまでやらないくらい念入りに体調を整えて、発声練習なんかしちゃって(笑)。「俺、力入りすぎじゃない?」と思ってしまうくらい、ワクワクしている自分がいました。

――甚爾は“術師殺し”の異名を持つ謎の存在として現れます。“強者感”をどのように表現していきましたか?

子安:抑えた芝居でしょうか。これはディレクションの方向性でもありますが、殺しのプロとしての凄みを表現するために、感情をあまり出し過ぎないように淡々と話す、という風な作り方をしていきました。

もちろん、自分の中では役作りとして深く潜り、甚爾の心の中にあるドロドロした感情――どうしようもないところまで行ってしまった人間性を踏まえてはいます。ただ一方で、作品全体を俯瞰で見たときに甚爾には「五条と対峙する強敵」という役割も任されています。そのため、見せ方としてはプロフェッショナルな部分を強調していくベクトルになりました。

――なるほど! 子安さんが役作りにおいて潜って掴んだ甚爾の内面の部分についても、ぜひ伺いたいです。

子安:例えば「悪役」と一口に言ってもわかりにくいタイプもいるので、そういう役については潜る作業が大変なのですが、その点で甚爾はわかりやすくはありますよね。呪術界御三家の禪院家に生まれたけど虐げられて屈折してしまい、逃げて逃げてここまで来てしまったけど生きていかなければならない。恨みや憎しみも捨てられないけど、でも本人にはどこかあっけらかんとしている部分もある。そして何より強い。そうした“ワル”なところが母性本能をくすぐるから、ヒモ属性につながるんでしょうね。

それに、「人を妬んだり恨んだりしても生きていかないといけない」って、僕が声優として活動しているなかで日常的に付き合っていく感情でもあるんです。先ほどお話ししたように、必ずしもやりたい役ができるわけじゃないし、出たいと思う作品に出られるわけじゃない。僕自身、鬱屈とした気持ちを持っているからそういうヤツには頑張ってほしいと思うし、寄り添いたくなってしまうんですよね。

――子安さんほどの方でも、そのような想いをお持ちなのですね……。負の感情を力に変えるという意味では、『呪術廻戦』自体のテーマと重ねってくるようにも感じます。

子安:コンプレックスや負の感情から生まれてくる強さは、やっぱりあると思います。「叩かれて大きくなる」とよく言いますが、自分の中で何くそと思って成長できたことって僕の経験としてもありますし、そういう鬱屈としたヤツの方が気持ちがよくわかるところはあります。最初から恵まれた能力を持っていたり、お金持ちの気持ちはなかなかわからないけど、一生懸命もがいてあがいて這いつくばってもなかなかダメで、どうしたって羨ましくてしょうがないという感情を持っているキャラクターにどうしようもなく惹かれてしまいます。

「悪役とはこうでなければいけない」を考えたことがない


――先ほどのお話にあったとおり、子安さんはこれまで数多くの魅力的な悪役を演じてこられました。子安さんの中での、悪役の哲学や美学というものはあるのでしょうか。

子安:そうした大きなものを考えて、枠の中に当てはめて演じていくことはないですね。僕自身悪役は本当に多いですし「美学」みたいにカッコいいことを言えたらいいんだけど、生憎と「悪役とはこうでなければいけない」を考えたことがないんです。やっぱり、一人ひとりのキャラクターはみんな違いますから。

技術としては積み上がったものがあるのかもしれないけど、役作りについてはその都度、そのキャラクターに合った考え方や想いを潜って探して演じていくしかない。毎回ゼロに戻って、いちいちそのプロセスを繰り返しています。

ただ、強いて言うなら――悪役を演じるときは収録現場での居方として、あんまりなれ合わないようにしちゃうところはあるかもしれません。あんまり器用じゃないから、「休憩時間はみんなで和気あいあいと話しているけど本番になったらパッと切り替える」みたいなことができないんです。だから、自分自身もなるべく役と同じような状態でいようという意識はあります。

――スタジオの門をくぐったらスイッチが入るといいますか。

子安:そうですね。正直、どこからでも簡単に入れる役もありますし、前の日からスイッチを切り替えないといけない役もあります。その辺りの塩梅も、本当に役によりますね。アフレコマイクの前に立つ前から役になり切らないといけないと思う役もあります。

――甚爾の場合は、それだったのですね。

子安:やる前から、口から出てくる言葉が子安じゃないようにしないといけないとは思っていました。いまのようにしゃべっているときも「どの面で甚爾を出そうかな」と考えていましたし、そうした雰囲気や声質、しゃべり方をスタジオに入る前から使い始めて定着させようとはしていました。

TVアニメ『呪術廻戦』第2期
MBS・TBS系列全国28局:2023年7月6日(木)より毎週木曜日23:56~

■スタッフ
原作:『呪術廻戦』芥見下々
監督:御所園翔太
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史・小磯沙矢香
副監督:愛敬亮太
美術監督:東 潤一
色彩設計:松島英子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:石川大輔(モンスターズエッグ)  
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳 圭介
音楽:照井順政
音響監督:えびなやすのり
音響制作:dugout
制作:MAPPA

■キャスト
五条悟:中村悠一
夏油傑:櫻井孝宏
家入硝子:遠藤綾
天内理子:永瀬アンナ 
伏黒甚爾:子安武人


(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

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2023-07-06 03:00:03Z
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