2024年4月27日 10:00
北条司氏の大人気コミックを日本で初めて実写化するNetflix映画「シティーハンター」が、4月25日から世界独占配信された。東京の大都市・新宿の裏社会で起こるさまざまなトラブル処理を請け負う、超一流のスイーパー(始末屋)である主人公・冴羽獠を演じるのは、原作の熱狂的なファンとして「責任と愛を持って演じた」と語る鈴木亮平。原作に対する多大なるリスペクトと、緻密な理論に裏打ちされた肉体改造でそのキャラクターになりきることに定評がある鈴木が、俳優人生を賭けてあこがれのキャラクターに挑んだ。
亡き兄の相棒だった冴羽獠とともに、兄の死の真相を探ることになるヒロイン槇村香は、森田望智が演じている。アクションシーンにも果敢に挑戦し、次第に獠と息の合う“バディ”となっていくさまを違和感なく演じてみせた。
抜群の身体能力と射撃スキル、そして冷静沈着な頭脳を持ちながらも、美女にはめっぽう弱い獠と、巨大ハンマーをかついで時には暴走しがちな獠のストッパー役となった香。この伝説の名コンビをふたりはどのようにして演じたのだろうか。そんな「シティーハンター」への思いを語り合ってもらった。(取材・文/壬生智裕、撮影/間庭裕基)
■“もっこり”がなければ「シティーハンター」ではない 新たに作った“ルール”とは?
――冒頭から「もっこり」が連発されるなど、コンプライアンスが厳しい時代に結構ギリギリまで攻めているようにも感じられたのですが、そのあたりは「全裸監督」を手掛けたNetflixならではの企画というところはありますか?
鈴木:そこは全く意識しなかったです。「全裸監督」と違って「シティーハンター」は少年漫画ですので、当時から「爽やかな下ネタ」の範疇だったのではないかと思います。当時と比べて現代は健全化していますが、それはあくまで「描き方を考えよう」ということで。現代の新宿に冴羽獠がいたらどんな感じでおちゃらけるんだろう、と想像するのは楽しかったです。
ただ、当時の原作漫画では、マイノリティに関するジョークなど現代の価値観に合わない表現も多いので、そういうところは注意深く扱いました。でもそれは、性的な意味を持つセリフを言ってはいけないというわけではなくて。何より“もっこり“と言わなければ「シティーハンター」じゃないですよね。あとは現代では当たり前ですが、「相手の同意なしに無闇に女性に触らない」というルールは設けられました。僕たちが作ることで現代の観客にシティーハンターという作品が嫌われてしまうことは避けたかったし、同時に当時からのファンの方にも「冴羽獠あいかわらずだな〜!」と笑ってもらいたい。そこのバランスを非常に気をつけました
森田:私は最初にお話をいただいた時は恥ずかしながら「シティーハンター」を観たことがありませんでした。それでマンガを読んだり、アニメを全部見たりしたのですが、すっかりファンになってしまいました。
ただ、私もマンガやアニメを見たときに、もしかしたら現代では受け入れられない表現も一部あるかもなとは思いました。ですが、そういった感覚は今回の「シティーハンター」ではまったく感じなかったんです。嫌悪感もなく、普通にいち女性として楽しめたのってとても大切なことだなと思っています。とてもライトな“もっこり”で見やすかったですね。
鈴木:僕はコンプライアンスというのは性的なものが一切駄目というルールではなくて、それによって誰かが被害をこうむったり、傷ついたり、生きづらい社会をつくる後押しをしてしまったらいけない、ということだと捉えているので、そこは分けて考えるべきだと思っています。そういったところを履き違えなければ、今後も楽しい「シティーハンター」はできると思っています。
■撮影現場ではインティマシー・コーディネーターがケアしていた
――逆に森田さんから見て、本能に忠実な冴羽獠というキャラクターはどういう風に見えましたか?
森田:もちろんそうしたところも冴羽獠さんの魅力のひとつだと思いますが、本当の獠さんって、もっと深いところで誰にも打ち明けてないような何かを持っている人だと思っています。何も語らない部分も、言葉より行動で体現していて、そういうところがすごくカッコいいですよね。だからちょっとおちゃめな一面があることによって、よりカッコよく見えるし、本当の獠さんの思っていることがより引き立つんだろうなと思いながら見ていました。
鈴木:そこが獠の魅力ですよね。「本能に忠実」ということでいうと、今回いろんなシーンを安心して撮影できたのは、インティマシー・コーディネーター(※)さんのおかげでした。ベッドシーンのようなものはありませんが、水着の女性やキャバレーで働く女性など、少しでも性的なニュアンスのある現場には入ってくださっていました。女性だけでなくて、僕が裸で踊るシーンでも同じです。事前に何をやるかを具体的に説明して、現場でもモニターを常にチェックしてくださって、俳優のケアをしてくれました。おかげさまであの踊りのシーンでは、観客も僕も余計な心配なく、盛り上がりながら良いシーンが撮影できました。
※性的なシーンにおいて制作側の意図をしっかりと俳優に伝える一方で、演じる俳優側を身体的、精神的に守り、サポートするスタッフのこと
――それはNetflix作品だからということではなく?
鈴木:今は民放ドラマでもインティマシー・コーディネーターがだいぶ入るようになりました。もちろんNetflixさんが進んでるのは間違いないです。
森田:ここ2~3年で進んだ感じはあります。
――やっぱりここ数年、業界も意識を変えていこうという流れがあるということですね。ところで今回、お2人は共演してみていかがでしたか?
鈴木:僕は、森田さんのおかげで作品が助けられたなと思っています。獠ってやはり漫画っぽいキャラクターじゃないですか。でも、今回は香の目線、香の感情から観客が入ってくるというか、原作と現実世界をつなげてくれる役目だったので。そこで森田さんが兄貴に対する思いとか、本気の感情で、リアルなお芝居をやってくださった。その難しい役割を見事に果たしていただいたなと思っています。
森田:スタッフさんへの関わり方もそうですし、作品へのリスペクトというところでも、亮平さんが先陣を切って進んでいってくださったので、皆さんも私もついていきました。亮平さんは、銃にしろ、アクションにしろ、セリフにしろ、撮影中はセットの裏でずっと練習しているんです。役として冴羽獠さんを見たときに、あれだけ練習して、努力したものだからこそ、ここまでできるんだなと思いました。スクリーンだと裏側は見えないですが、ここまでしなきゃいけないんだ、ここまでしたらここまで体現できるんだ、というのが身にしみてわかりました。これから、自分が演じる上で指針となるような姿をいっぱい見せていただいたなと。
亮平さんの演じる獠さんはすごく温度があるというか、役者としてこの作品を絶対に成功させるんだ、という亮平さん自身の思いも役に乗っていて。エネルギーがあって、ずっと見てしまいます。これは、役者さんがやるからこその魅力なんじゃないかと思います。
――それは、やはり現場に入っても役づくりを常に追求し続けるということですか?
鈴木:そんなつもりはないんですけどね(笑)。僕は普通にやってるつもりなんですけれど。
森田:亮平さんにとっては普通だと思うんですけど、私からしたら普通じゃなかったです(笑)。
鈴木:変だとはよく言われますね。結局、自分で何かを表現したり、自分じゃないものになったりするのが好きなんですね。それはこの歳になってわかってきたことなんですけど、なんだかそういうのが好きみたいですね(笑)。
森田:絶対にそうだと思います(笑)。
鈴木:やっぱ物語をつくるって面白いですからね。魔法みたいな感じというか。でも、今回は逆に楽しいだけじゃなかったかもしれない。責任感というか、子どもの頃の自分を裏切りたくない、という気持ちがすごくあった。「シティーハンター」に出合った頃の自分が観たときに、もっとできたじゃないかと思われるものには絶対しちゃ駄目だというのはありましたね。それはファンの方もそうですけれど、ここで全力で向き合わなかったら、お前いつやるんだよっていうのはありましたね。
森田:その思いはひしひしと伝わってきました。そういう思いって役に反映されるんだなって。映らない部分も映るんだっていうのはすごく思いました。
■香=巨大ハンマー 森田望智「しっくりくるようになりました(笑)」
――ところで、香といえば獠をツッコむ時に使用するハンマーが欠かせないところです。
森田:私も最初はこの実写でハンマーをどうするんだろうと思っていたんですけれど、ものすごく現代にマッチしたアイデアで大きなハンマーが登場するんです。あの大きなハンマーを持てるんだなというのがすごく嬉しくて。これは私がマスターしないといけない、という気合で頑張りました。
鈴木:僕がアドバイスをしたのは、ハンマーの振り回し方です(笑)劇中のセリフにもありますが、ファンとしては、香はハンマーを持った瞬間からしっくりきていて欲しいんです。ハンマーに振り回されると香じゃないので。そういうことをお伝えしたらずっと練習していました。
森田:やはり重心と、ハンマーを自ら操っている感じが香ちゃんなので。そこはめちゃくちゃ練習しました。ものすごく重くて、うまく扱うのが大変だったんですけれど、とにかく練習あるのみで。最終的にしっくりくるようになりました(笑)。